世界的にエネルギー問題が深刻化する中、一般住宅だけでなく企業における太陽光発電の積極的な導入が推進されています。
特に国内では、電力の不足など複合的原因による2022年の電気代高騰を受けて、自ら設置した太陽光発電システムによる電力を消費する「自家消費型太陽光発電」が注目を集めています。
自家消費型太陽光発電は、様々な観点から、今後一般家庭のみならず、電力消費量の大きい工場には必要不可欠な設備となってくると予想されます。そこで、事業者なら知っておきたい「工場における太陽光発電導入のメリットやデメリット」について、詳しく解説します。
工場に導入する自家消費型太陽光発電とは
工場では、建物の屋根や駐車場、または有休地などのスペースを活用して、太陽光パネルやパワーコンディショナなどの発電設備を設置します。
設置した太陽光発電システムで発電した電気を、工場の電気設備に供給して活用する事で、これまで外部からの供給に100%頼っていた電力の一部を自社で賄えることになります。
これによって、エネルギーコストの削減だけでなく、CO2排出量の抑制、BCP対策など、様々な問題が改善されます。
なぜ売電より自家消費型が良いのか?
太陽光発電というと、売電収益をイメージしがちですが、2022年の1kW当たりの価格は約11円で、売電開始の2012年時点と比較して29円も下落し、売電価格よりも使用料金の方が高くなっています。
電気使用料高騰の理由としては
再生可能エネルギー発電促進賦課金の継続的な値上げ
国内の電気供給力不足
などが挙げられており、この問題は今後も続く見通しで、2023年以降の電気料金についても、すでに大手電力供給会社は値上げを予定しています。
太陽光発電を工場に導入する8つのメリット
電気代が削減できる
工場に太陽光発電を設置する最大のメリットは、エネルーギーコストの削減、つまり電気料金の負担を大きく軽減できることです。
経済産業省の「令和3年度エネルギーに関する年次報告」によると、1965年から2020年までにおける日本の最終エネルギー消費全体のうち、企業・事業所他部門が61.9%を占めていて、そのうち製造業は約70%近くにのぼります。
工場の規模や事業内容によって消費電力も異なりますが、小中規模の工場で年間の電気代が数百万円から数千万円、大規模工場では年間数億円の電気代が支払われています。
この一部が、自家消費型太陽光発電で賄われれば、大きな電気代の削減につながります。
ソーラーパネルの枚数が多ければ多いほど1kWあたりの発電コストが安くなる特徴がある太陽光発電では、屋根など設置面積が比較的広く、消費電力も大きい工場で、より高いパフォーマンスを発揮します。
電力価格高騰のリスクに備えられる
電気代の削減と同様、自家消費型太陽光発電システムの導入によって、電力の自給自足を実現することで、電気代高騰のリスクに備えることが可能になります。
冒頭でも触れましたが、電力価格が上昇している背景として次のような事柄が挙げられます。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響による世界経済の停滞
ロシアとウクライナの問題による燃料の輸入制限
円安による燃料輸入価格の上昇
脱炭素社会に向けた政策
燃料価格上昇が続く状況の中、東京電力など大手電力会社は、燃料費調整額の上限撤廃を宣言しました。
これによって、2023年以降も引き続き電気料金が上昇すると見込まれています。
停電時に電力源を確保できる
最も重要な防災対策のひとつに「停電対策」があります。
予測不可能な地震や台風をはじめとする自然災害による停電は、工場の業務に大きなダメージを与えるだけでなく、従業員の安全を脅かします。太陽光発電が工場に導入されていれば、万一の停電時にも自家発電により、安全に業務を行うことが可能です。
通常の太陽光発電システムの回路は停電時に遮断されてしまい、工場への電力を供給できませんが、自立運転機能を持ったパワーコンディショナーと連携させれば、停電時に自立運転モードに切り替え、工場への電力供給が可能になります。
さらに、太陽光発電と併せて蓄電池の設置があれば、曇りや雨の日などの太陽光発電が困難な環境でも、あらかじめ貯めた電力を使用できるため安心です。
税制優遇による節税対策
企業が自社に太陽光発電を導入する際には、主に次の税制優遇が受けられます
中小企業経営強化税制中小企業投資促進税制
「中小企業経営強化税制」と「中小企業投資促進税制」では、どのタイミングで減価償却するのかを選べます。
1.太陽光発電システムの減価償却費をまとめて償却できる即時償却
太陽光発電システムを導入した初年度に、経費を一括もしくは30%を償却できるので、その年の業績が好調で昨年度よりも利益が上がると予想される場合に、即時償却することで払う税金を抑えられる。
2.税額から10%または7%を差し引く税額控除
太陽光発電システムの導入にかかった経費を毎年、10%もしくは7%を法人税から差し引きできる
毎年安定した業績を出している企業は、税額控除を選択することで、より多くの控除を受けられることになります。
このほかにも、固定資産税の特例を受ける、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の対象事業者となる、などが挙げられます。
脱炭素(カーボンニュートラル)の促進
日本で排出されるCO₂のうち8割以上が企業活動からであり、さらに、工場を持つ製造業は全体の4割弱を占めているとされているため、カーボンニュートラル達成のためには「製造業の脱炭素化」が不可欠です。
太陽光発電は発電時にCO₂を排出しない再生可能エネルギーですので、これを導入し活用することは即ち脱炭素の促進につながります。
2020年10月に内閣府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表してから、国内のあらゆるシーンで脱炭素に向けた取り組みが加速する中、脱炭素に積極的に取り組んでいる企業は、企業価値が向上し、ビジネスチャンスが広がるだけでなく、優秀な人材が確保できるなどのメリットも出てきています。
一方で、脱炭素に取り組んでいない企業は取引から除外されるなど、経営上、多くのリスクが生じる可能性が大きくなっています。
BCP対策として有効
太陽光発電の導入は、BCP対策=事業継続計画にも有効です。
BCP対策とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことで、企業としての社会的信用にも大きく影響します。
事業継続のために対策するべきポイントは多々ありますが、「電力確保」は重要な課題のひとつです。
東日本大震災をはじめ、これまでに起こった災害でも、広い範囲で電力供給がストップしました。ひとたび大規模停電が発生すると、完全復旧までに1週間以上かかるなど、長期にわたるケースも少なくありません。
特に工場にとって「停電」は、製造ライン停止を伴うため、数千万円単位の損失につながる場合もあります。
太陽光発電で工場すべての電力を賄うことは困難でも、あらかじめ核になるシステムや設備を選定して、太陽光発電の電気が供給できる設計にすることで、緊急時のリスクマネジメントにつながります。
さらに、蓄電池を併用すれば、太陽光パネルの発電量が低下する夜間や雨天時も、工場の非常用電源を確保することが可能になります。
工場立地法における環境施設割合の増加
工場立地法によって、一定以上の敷地面積または建築面積を有する工場は「特定工場」に指定されているため工場立地法の規制対象となり、工場の敷地面積のうち「20%以上の緑地」と「25%以上の環境施設」を設ける必要があると定められています。
出典:「工場立地法の生産施設面積率の見直しについて」(経済産業省)
環境施設は、工場の敷地内に設ける必要がありますが、限られた敷地の中で、新たに運動場や広場などのスペースを確保するのは困難です。
屋根などに設置するソーラーパネルも「環境施設」に該当するため、太陽光発電を導入することで敷地面積を奪うことなく、環境施設割合を増やすことができます。
工場の遮熱断熱
工場の屋根に太陽光発電を設置することで、遮熱・断熱効果が生まれます。
太陽光パネルが夏は直射日光を反射し、冬は放射冷却を抑制する役割を果たすため、夏場は室内の温度を2℃近く下げ、冬場は室内の熱を逃がしません。
冷暖房機器の使用頻度、空調の温度設定を抑えることで、消費電力の削減にもつながります。
太陽光発電を工場に導入するデメリットは3つ
高額な初期費用が必要
工場への太陽光発電設置には、最低でも500万円程度、規模が大きければ数千万〜数億円の初期投資を必要とする場合もあります。
導入を検討しても、高額な見積もり金額で断念する企業も少なくありませんが、工場のように消費電力が多い施設では太陽光発電導入によるメリットも大きく、10年以内で初期費用を回収できる運用例も多くあります。
補助金の活用や、税制優遇、PPA(電力購入契約)・リースの活用などを考慮して検討しましょう。
また、悪質な取扱業者もおり、品質や金額、施工技術などにもムラがありますので、十分な注意も必要です。
定期的なメンテナンスコストが必要
太陽光発電は「精密機械」であるため、定期的なメンテナンスが欠かせません。
メンテナンスを怠れば、故障や発電効率が低下するリスクが高まり、本来の性能を発揮することができなくなるだけでなく、機器の寿命も縮めることになります。
メンテナンスは専門的な技術を要する為、専門課への依頼が必要で、実施する箇所は太陽光パネル、パワーコンディショナ、ケーブル、接続箱、架台、キュービクルなどで、目視による点検のほか、機器を用いた電気測定、温度調査など多岐にわたります。
施工会社のメンテナンスプランに加入するか、メンテナンス専門会社に依頼するなど、実績を持った業者による定期的なメンテナンスは必要不可欠です。
メンテナンスコストは容量など諸条件によって異なりますが、設備容量が50kW未満の場合年間約10~15万円、設備容量50kW以上だと年間100〜200万円位が相場です。
キュービクル(高圧受電設備)の改造が必要なケースがある
キュービクルを導入している高圧工場に太陽光発電を設置する場合、必ずキュービクルを通して送電します。
ところが、多くの場合には太陽光発電の送電分を追加するだけの容量がキュービクル側に残っていません。
その場合、新しいキュービクルを追加するか、既設のキュービクルの容量を増やす必要があります。
つまり、太陽光発電の設備費用だけでなくキュービクル関連のコストもかかることになります。
太陽光発電設備を設置する業者には、キュービクルを開いて改造できる資格や技術者がいない場合も多く、業者の選定にも手間がかかります。
工場で太陽光発電導入するなら知っておきたい注意点
設置する屋根の形状や強度
太陽光発電は、屋根の形状・強度によって導入不可能または、導入が危険という判断が下る場合もあります。
比較的多く使われている88折板・スレート屋根の場合は、屋根に穴を開ける設置方法のため、建物の状態によっては雨漏りのリスクもあります(屋根に穴を開ける必要がない屋根の形状、ハゼ折板・陸屋根であっても、強度の問題で導入できない場合もあります)。
ただし、自社で屋根の強度計算を専門家に依頼するとなると、設置可否の判断をするだけでも規模により数百万円〜の検査費用が発生します。こういった点からも、屋根に太陽光発電の設置を検討する場合は、施工業者が電気工事のみならず、屋根や建築に関するノウハウを保有し、設置判断もできる事業者であるかを確認する必要があります。
太陽光発電設置工事のタイミング
工場に太陽光発電を導入する際には、設置工事にあたり一時的に工場の電源を停止させる事になります。
工場の運転を止める事は「損失」につながるため、できるだけ負担のかからない時期を避けて、施工を実施するように計画する必要があります。
複数の施工業者に相談する
各項目でも触れたように、業者選びは重要です。
工場での太陽光発電は一般家庭とは違い、大がかりな工事になるため、施工実績の少ない業者だと工事の段取りを上手くたてられません。
そのため、実績が豊富で信頼できる施工業者を複数探して、それぞれ見積もりを出してもらい、最も納得できる内容の業者に依頼するようにしましょう。
・ 工場における自家消費型太陽光発電では、設置した太陽光発電システムで発電した電気を、工場の電気設備に供給して活用する。
・ 太陽光発電を工場に導入する事で、電気代の削減や節税など経済的な効果が期待できる。
・ 太陽光発電を導入は、脱炭素やBCP対策をはじめ企業の社会的信頼につながる。
・ 太陽光発電の導入には、高額な初期投資費用やメンテナンスコストがかかる。
・ 消費電力が多い工場では太陽光発電導入によるメリットも大きく、10年以内で初期費用を回収できる運用例も多い。
・ 太陽光発電設置には、高圧受電設備の新設や改造など特殊な工事が必要になる場合もある。
・ 太陽光発電の導入には、設置に関わる屋根の調査など技術力があり、信頼できる業者選びが重要である。
太陽光発電を工場に設置する際のメリットとデメリット、注意点をご紹介してきました。
工場に太陽光発電を設置すれば電気代削減や節税、企業価値向上につながるなどのメリットがある一方で、導入や維持にかかるコストなど十分に検討が必要なポイントもあります。
太陽光発電の導入は、省エネや売電目的だけのものから、自家消費型太陽光発電というエネルギー対策のひとつとして新しいフェーズに入りました。
短期的な利益だけでなく、長期的な運用による効果を視野に入れて、企業の社会的責任としても導入の検討を進めてください。解決ファクトリーでも工場用の自家消費型太陽光発電システムをご紹介しています。ぜひご覧ください。