2024年5月に発表された「2024年版ものづくり白書」では、日本の製造業においては、グローバルビジネス展開を急拡大させ、過半を海外市場で稼ぐ構造になっているものの「稼ぐ力の向上に繋がっていない」という現状が目の当たりとなりました。
更に「2024年版ものづくり白書」内では、“CX(Corporate Transformation)による組織経営の仕組み化”×” DX(Digital Transformation)による製造機能の全体最適化、ビジネスモデルの変革”が必要だと断言しています。
今後、日本の製造業においては、CXとDXが製造業を成長させるため、ひいては「稼ぐ力」のキーワードになりそうです。
そこで、今回はこの「CX」と「DX」について詳しく掘り下げていこうと思います。
目次
なぜ、CX(Corporate Transformation)が必要なのか?
CXとは、「コーポレート・トランスフォーメーション(Corporate Transformation)」の略語です。「企業が競争力を維持・強化するために、組織、プロセス、文化、技術の面で大規模な変革を行う」ことを指します。
どうしてCXが製造業に必要なのかというと、日本の製造業はグローバル化が進み海外売上も大きく増加しているにも関わらず、企業の組織体系の変革がそれに伴なっておらず、利益率を米欧並みに上げられていない状態です。
市場の変化に迅速に対応し、成長を持続させるため、企業全体を再構築し、従業員の意識改革や顧客ニーズに即したサービス提供を目指すためには、CXが必要不可欠なのです。
グローバル化する日本製造業の現状
財務省・日本銀行「国際収支統計」をみると、2023年の「経常収支」は約20.6兆円の黒字となっています。
2008年のリーマンショック以降、日系主要製造事業者の海外売上比率は大きく増加しています。直近では、主要製造事業者の売上げは、その過半を海外市場で稼ぐ構造にまで変化してきているのです。
一方で、利益率に着目すると、純利益率は継続的に上昇してきているものの、依然として米欧よりも数ポイント低い状況です。
利益率の低さの要因の一つとして、ビジネスのグローバル展開に伴う経営の複雑性が挙げられます。
海外展開を進めている製造事業者は、国・地域ごとに現地法人を立ち上げ、あるいはM&Aを通じて別の事業体を傘下に収めることで、組織ごとに設備やオペレーションを重複して抱えるようになり、必然的に企業グループ全体としての規模が拡大し、経営の複雑性が高まっていると考えられます。
海外展開している日本企業が抱える非効率な状況
日本企業と米欧企業との大きな違いとして、海外子会社も含めた企業グループ横断的な仕組みが整備されているかどうかという点が挙げられます。
日本企業は、日本本社から海外現地法人を含む子会社へ人材を出向させることで間接的に本社の影響力を持たせる一方で、組織設計を始めとする様々な権限を子会社に委譲する「連邦経営」を行っている企業が多いという結果が現れています。
その結果、日本企業はそれぞれの子会社に経理や人事等の機能が重複して所有され、固定費が膨張する一方で、子会社各々が個別に制度・ルールを作り込むため、全社横断的なシステムやルールの整備・統一が進まず、急激なグローバル展開に伴う経営の複雑性ともあいまって、非効率的な状況を生み出していると考えられます。
日本と海外現地法人という形で分断された構造を脱却し、国内及び海外の組織が一つの組織のように、情報の共有やコミュニケーションがスムーズに行われるようにシステムが整えられ、日本企業の本社がグループ全体をマネジメントできれば、「稼ぐ力」に大きな影響を与えられるのではないでしょうか。
◆更なるコスト削減を目指すには
海外に進出した日本企業には「それぞれの子会社に経理や人事等の機能が重複して所有されている」のではないかと、前に明記しましたが、コスト削減を目指すには以下を利用するのも一案ではないでしょうか。
グローバル競争強化にむけたCX(Corporate Transformation)
これまでお伝えしたように、国内及び海外の組織が隔たりなくスムーズにつながるようにするには、組織を再設計・再構築することが必要になります。
企業が限られた資源(ヒト、モノ、カネ、情報など)を、組織全体の目標達成や競争力強化のために最適な形で分配・活用する経営資源配分の戦略的な判断が求められます。
そして、企業が競争力を維持・強化するために、組織全体にわたる大規模な変革を実施するCX(Corporate Transformation)が必要不可欠になってくるのです。
CXには以下の3つの要素が重要です。
- ファイナンス
- HR: 人事
- DX(デジタルトランスフォーメーション)/ IT(情報技術)
ファイナンス
日本では会社や事業部といった組織単位での管理会計が中心でしたが、今後は製品・サービス単位での損益を把握することが必要となってきます。
また、日本企業の経理部門では「資本が過去どこにあったのか」に多くのリソースが割かれていましたが、「資本は将来どこにあるべきか」の経営意思決定への支援としての役割は十分に果たせているとは言い難い状況です。
そこで、事業部や法人単位の個別での管理会計を脱して、企業が持つ「ヒト、モノ、カネ、情報」などの経営資源を最適に配分・管理し、業務プロセス全体を効率化するための統合的な管理手法であるERP(企業資源計画:Enterprise Resource Planning)を用いて事業規模、グループ全体での実績把握に繋げることが必要です。
その実績をベースにして、数か月先を予測し、月次や四半期周期での予算や分析を通じて、経営計画を毎年アップデートしていくことで、製品・サービス単位から企業全体の事業計画を連動させることが、グローバルな企業の動きとなっているからです。
そうして、個別の法人単位を超えたグループ全体としての意思決定を最適化していくためには、財務や会計の分野から必要な情報を提供し、経営者や事業部門長の意思決定を支援するFP&A(Financial Planning & Analysis)などを通して実現していくことが求められるのではないでしょうか。
HR: 人事
近年、我が国製造事業者における海外現地法人の従業員数の割合が約6割まで増加しています。
海外におけるビジネス展開は拡大している中、人材不足等も背景に、これまでのように海外拠点に日本人駐在員を置く派遣型を維持することが難しくなりつつあるのが現状です。
そのため、日本企業では、海外現地法人トップや幹部についても現地人材を登用することが増加しています。
その一方で、海外法人で登用された人材への「人事制度のグローバル統一・共通化」や「グローバル最適の人材配置」といった人事制度の統合・標準化は未着手であるケースが多く見受けられます。
今後、日本企業は、海外現地法人の人材も含めたグローバル一体での人材活用を進めていくことが必要になります。
HR(Human Resources、人事)が世界的に採用している戦略は、企業の持続可能な成長と、従業員の仕事に対する熱意や目標の達成感を得られることを目指しています。
1. タレントマネジメント
世界中のHR戦略の中核となるのが、優秀な人材を採用し、育成し、保持することです。
これには、採用プロセスの改善、従業員のキャリア開発、リーダーシップ育成、後継者計画が含まれます。企業は多様なスキルを持つ人材を戦略的に配置し、個々の成長を支援することが必要なのです。
また、人事データを分析し、採用、パフォーマンス管理、従業員のロイヤリティや離職リスクを予測した人材分析ツールにより、採用プロセスの効率化と精度向上が図られています。
2. 多様性と包括性
国際的なビジネス環境では、多様性を受け入れ、包括的な職場を作ることが重要視されています。
ジェンダーや人種、年齢、障害の有無、文化的背景など、さまざまな視点や経験を持つ従業員が平等に貢献できる環境作りが不可欠です。多様性のあるチームは、革新性と競争力の向上に貢献できます。
3. モチベーションとワークライフバランス
従業員のモチベーションと満足度を高め、会社への貢献意欲を強化するために、HRは社員のスキルアップやリスキリング(新しいスキルの習得)に注力する企業が増えています。
加えて、従業員の健康や、身体的・精神的・社会的に良好な状態に保つこともHR戦略の一環です。
これには、フレックスタイム制度、リモートワークの整備、育児や介護支援の提供、柔軟な勤務制度、健康や福利厚生プログラム、メンタルヘルスサポートが含まれます。企業は社員の「働きがい」を高めることで、生産性や離職率の改善を目指しているのです。
4. コンプライアンスと倫理
労働法、差別禁止法、職場の安全基準など、各国の法律や規制を遵守することが求められます。
HRは、企業が法的義務を果たすだけでなく、倫理的な働き方を実践するためのポリシーやガイドラインを整備します。それにより、法令違反のリスクを回避し、持続可能な経営を支援します。
5. 持続可能な組織づくり
企業の持続可能性や社会的責任を評価するための基準として「環境、社会、ガバナンス(ESG:Environmental Social Governance)」が使われており、投資家はESG要素を考慮して投資判断を行うことが増えています。
ESGは、環境に配慮した働き方や社会的責任を果たす企業文化を推進する役割を担います。
上記は、企業がより効果的に人材を管理・育成し、競争力を維持するためのHRが持つ世界的な戦略基盤となっています。これらを整備することで日本企業が世界的な視野で人材活用を進める出発点になると考えられます。
◆外国人労働者とのコミュニケーションや従業員の習熟度・進捗管理に
従業員の多様性は言語にも影響を及ぼすと考えられます。
マニュアルを複数の言語へ変換したり、PC・スマホでいつでもどこでも自己学習可能であったり、下記を導入することへのメリットは大きいでしょう。
工場用eラーニング・オンライン研修ツール「スマートスタディ」
DX(デジタルトランスフォーメーション)/ IT(情報技術)
グローバルビジネス展開の拡大に伴う経営の複雑性を乗り越える上で、DX(Digital Transformation)は不可欠です。
日本企業に配置されている一般的なIT部門は、ITシステムを提供するバックオフィス的な役割にとどまっている傾向にあります。
さらに、組織や部署それぞれに閉じた形で業務プロセスの最適化を進めており、全体を把握する者が不在であるケースが多く見受けられます。
その結果、各部署で業務効率化を目的とした個別のITシステムが整備されることや組織間でデータが独自に管理されることによって、企業グループ単位でみた際にシステムが乱立し、収集したデータが適切に共有されず、経営判断の際に必要とされる情報を適時に入手することが困難な状況に陥っているように思われます。
まずは、ビジネスの全体像を明らかにすべく、全社目線で業務プロセスを可視化していくことが必要不可欠となっております。
製造業のDX(Digital Transformation)について
DX(Digital Transformation)とは、企業がデジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを根本的に変革し、競争力を強化する取り組みのことです。
これにより、業務の効率化やコスト削減だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出が可能になり、事業拡大へとつながるのです。
◆DXの基礎知識に関しては以下の記事もご参照ください。
日本企業の製造業のDXの現状
日本の製造事業者におけるDX(Digital Transformation)の取り組みは、業務の効率化や生産性の向上を目的とした「個別工程のカイゼン」が多く、個社最適化を目指す「製造機能の全体最適」はまだまだ少ない状況です。
加えて、新たな製品・サービスの創出により新市場を獲得する「事業機会の拡大」を目指す取り組みは、更に少ない状況に陥っています。
業務全体の最適を目指すには
「稼ぐ力」を向上させるには、コスト削減に加えて売上げ向上も重要ですが、日本の製造事業者が得意としている現場起点の改善だけでこれを達成することは難しい場合も多いと考えられます。
そのため、経営課題起点で業務プロセス全体を把握した上で、急所を分析・改革する取り組みが必要です。
製造部門の工程の業務プロセス改善だけではなく、設計、開発、調達、物流、営業等の部門とも連携し、原価管理、部品表、工程表の一元管理等を行うような「製造機能の全体最適」を目指す必要があります。
そのためには、IoTやAI、ロボティクスなどの最新技術を活用して製造プロセスを自動化・最適化し、効率を向上させるスマート・マニュファクチャリング(Smart Manufacturing)の取り組みが求められます。
それにより、生産ラインの柔軟性が高まり、リアルタイムでのデータ分析に基づく迅速な意思決定が可能になるのではないでしょうか。
経済産業省では、各事業者が整備していく支援として、デジタルガバナンス・コードをはじめ、人材、情報、資金等の適切な資源配分に寄与する施策を網羅的に展開しています。
◆自社に必要な申請を「補助金助成金 申請代行サポート」で
各省庁が、事業者が整備していくための支援施策を多く展開していますが、その中から、自社にマッチした施策を限られた時間で検索・申請するのは至難の業です。
そこで、国家資格を持つ行政書士が必要書類をゼロから作成し、申請の悩みを解決する以下をご提案します
スマートマニファクチャリングとは?
スマートマニファクチャリング(Smart Manufacturing)とは、デジタル技術と高度な自動化技術を駆使して製造プロセスを最適化し、効率を向上させる次世代の製造方法です。
このアプローチは、製造業においてデータを活用し、これにより、製品の品質向上、コスト削減、生産性の向上、柔軟な生産対応などが実現できるのです。
経済産業省とNEDOは、製造事業者各社が直面する経営課題の解決に向けて、経営・業務変革課題の特定を起点としてデジタルソリューションを適用・導入する企画・構想設計に重点を置いた「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」を共同で策定し、2024年6月に公表しました。
「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」とは、製造事業者が自社としてのスマート化の道筋を描くための考え方や視点、目指す姿を具体的に示したガイドラインです。
出典:経済産業省「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」を取りまとめました
製造事業者がリファレンスを参照することにより、過不足なく効率良い検討が可能な構成となっています。
製造機能の全体最適に向けては、経営戦略の遂行を可能とするデジタル戦略を描くとともに、製造現場の業務プロセスの全体像を熟知した上でのデジタル実装が求められています。
・グローバル化する日本製造業の海外売上比率は増加しているものの、利益率に着目すると米欧よりまだまだ低く、組織がシームレスにつながる必要性がある。
・製造事業者におけるDXは、「個別工程のカイゼン」に関する取組が多く、「製造機能の全体最適 」を目指す取組が少ない。
・「稼ぐ力」を向上させるには、経営課題起点で業務プロセス全体を把握した上で、スマート・マニュファクチャリング(Smart Manufacturing)の取り組みが必要。