工場や倉庫には、機械やフォークリフト、重量物や化学物質など、扱い方によっては重大な事故の原因となる要素が数多く存在するため、しっかりとした「安全対策」が必要です。
この安全対策を怠ると、大きな事故を引き起こすだけでなく、従業員の命が危険にさらされたり、社会的信頼が失われたりするなど、事業存続に影響する場合もあります。
ところがこの「安全対策」に対する意識が低いために、現場でルールが守られず、事故が発生するケースが後を断ちません。
そんな悲劇を招く前に、責任者なら絶対に知っておきたい安全対策における基本的な考え方について、お話ししたいと思います。
目次
安全対策のルールは危険を避けるための指標
工場や倉庫では、概ね安全に関するルール(規則)を定めています。
このルールによって業務の工程が増えたり、時間がかかったりなど、一見すると非効率な印象を受けるかもしれませんが、危険回避のためには絶対に必要な仕組みです。
令和2年1月から12月までの労働災害による死亡者数(以下「死亡者数」)は802人で過去最少となったものの、休業4日以上の死傷者数は131,156人と平成14年以降で最多となりました。
この数字が示す通り、企業にとって労働災害の防止は最優先課題です。
まずは、工場長など責任者や管理者が、現場にどのような危険があるかを十分に把握し、全従業員に周知すること、そして安全のためのルールを徹底した遵守を促すことが求められます。
また、日常業務でのホウレンソウ(報告・連絡・相談)を徹底し、危険があれば速やかに対策を立て、危機意識を共有することが重要です。
安全対策としての 5S活動
5s活動 (ゴエスカツドウ)とは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」 の5つの行動を意味します。
主に工場など製造業の現場における、職場環境や安全性を改善するためのスローガンです。
5s活動は、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの順に重要であり、実行する順番も同様です。
では、それぞれの「S」を細かく見ていきましょう。
● 整理| (Seiri・せいり)
【不要なモノを捨てる・片付ける】
工場や倉庫では、資材や製品など様々な物を保管し、取り扱います。
使わない物を放置しておけば、衛生面や作業環境が悪化するだけでなく、万一事故が発生した場合、放置物が被害拡大の原因になる可能性もあります。
● 整頓|(Seiton・せいとん)
【決められた場所に決められたモノを配置する】
必要なものを誰でもすぐに取り出せるように、道具や資材の置き方・個数などを決めて整頓します。
作業の効率化ができるだけでなく、紛失物をいち早く発見し混入事故を防ぐほか、危険物や道具が整っていれば、現場の安全性が高まります。
● 清掃|(Seisou・せいそう)
【常に掃除を行う】
ただゴミやホコリを取る簡易的な清掃ではなく、機械をスムーズに作動させるための定期的なメンテナンスなど、現場の環境や取り扱い品目によって細菌や微生物の除去や、昆虫や害虫の発生を防止することが、事故や災害の防止にもつながります。
● 清潔|( Seiketu・せいけつ)
【整理・整頓・清掃を維持する】
「整理」「整頓」「清掃」の3sを維持することが清潔の必須条件です。
「清潔」を保つためには、従業員すべてが、整理・整頓・清掃を無理なく遵守できるような環境整備やルール化などの仕組みづくりが必要です。
● しつけ|( Shituke・しつけ)
【ルールを守る習慣を身につける】
清潔を保つためのルールを策定し、これを守る習慣を身に付けることが「しつけ」です。
叱るなど強制的に行動を促すのではなく、自発的に動く(守る)ための訓練が必要です。
決められたルールを守る習慣を身につけることで、現場従業員のモラル向上につながります。
これで終わりということはなく、慣れることがないよう、重要事項として繰り返し取り組み続けていくことが、工場や倉庫の安全対策になります。
危険予知を身につける訓練|KYT
KYT=危険予知訓練とは、作業者自らが、職場や作業中に潜んでいる危険な現象、有害な現象を引き起こす危険要因に対する感受性を高め、解決していく能力を向上させるためのものです。
※ KYTは、危険の「K」、予知の「Y」、トレーニングの「T」の頭文字を組み合わせたものです。
KYTの目的
KYT(危険予知訓練)の目的は労働災害の防止です。
KYTは、安全確認手法を確実に実行できるようにするための訓練ですが、職場の安全に対する意識や、チームワーク向上などの効果も期待できます。
KYTの手法
KYTでは「基礎4ラウンド法」と呼ばれる訓練手法が用いられます。
事故が発生しそうな状況のイラストを見ながら行う訓練と、実際の現場を見ながら行う訓練があります。
- 1R(ラウンド):事実を掴む → 潜んでいる危険をあぶりだす
- 2R(ラウンド):原因を探る → 重要度を分類する
- 3R(ラウンド):対策を立てる → 対策案を出し合う
- 4R(ラウンド):行動目標を決める → チーム共通のルールをつくる
1R | 事実を掴む
活発に意見を言い合える人数(5名前後)で行います。
イラストや現場を見て、考えられる危険を挙げ、思いつく限りの問題を洗い出します。
それぞれの意見を否定せず、挙げられた危険を書き出して一覧にして事実を把握しましょう。
2R | 原因を探る
1Rで挙げられた意見の中から、重要と思われる項目に〇を、〇の中で最も危険だと思われる要因に◎をつけてアンダーラインを引きます。
意見が分かれても多数決にせず、話し合いによってメンバー全員が納得のできるものを導き出すことがポイントです。
◎の項目を危険のポイントとして、メンバー全員で指差し唱和をして確認しましょう。
3R | 対策を立てる
2Rで◎をつけた「危険のポイント」の解決策について、メンバー全員で意見を出し合い書き出します。
ひとりひとりが「自分ならどうする」といった視点で考えることが重要です。
4R | 行動目標を決める
3Rで出された対策をもとにメンバーで話し合い、全員の合意を得て重点実施項目を決定します。次に、重点実施項目を実行するための行動目標を設定します。
全員でチーム行動目標を唱和して確認し合いましょう。
「ヒューマンエラー」や「リスクテイキング」などがこれに当たります。
KYTを導入することで、従業員の安全確認に対する自主性が養われ、安全を先取りしてチームワーク良く作業を進めるといった職場風土の醸成(モラルの向上)も期待できます。
ヒヤリハットとホウレンソウで事故を未然に防ぐ
報告・連絡・相談の略称である「ホウレンソウ」。
工場や倉庫で、事故にはならなかったが「ヒヤリとした」「ハッとした」といった体験を指す「ヒヤリハット」。
この2つは安全対策を実施する上で、最も重要なファクターです。
ハインリッヒの法則と呼ばれるヒヤリハットは、アメリカのハーバート・ウィリアム・ハインリッヒによるもので、1件の重大な事故には、9件の軽い事故と300件のヒヤリハットがあるというものです。
数千件の労働災害を調査した結果、1931年にIndustrial Accident Prevention-A Scientific Approachという著書で発表しました。
つまり、ヒヤリハットは
ハッとするような出来事の段階で予防策を講じていれば、ヒヤリとする中規模の事故を防止できる。
ヒヤリとする中規模の事故が起きた場合、その対策をきちんと講じていれば重大な事故を防ぐことができる
という考え方です。
ヒヤリハットを体験したら必ず記録することを徹底し、全体ミーティングなどで報告~連絡を行います。
改善が必要な場合は管理者に相談するなどして、具体的な施策を行います。
安全対策のルールを守らせる4つのステップ
ここまで、安全対策のルールや訓練などについてお話ししてきました。
工場や倉庫のルールは本来、作業員の安全や業務効率化のためにあるものですが、ルールを守らない従業員が多ければ、安全対策は万全とは言えません。
ここでは、ルールを守りやすくするためのポイントをご紹介します。
【Step1】 ルールの目的を伝える
ルール遵守を徹底するには、まず目的を明確にわかりやすく伝えることが大切です。
ルールが守られない原因として、「何のためにやるのかわからない」など、行動の目的や重要性が理解されていないことが挙げられます。
【Step2】 ルールの改善を行う
違反が目立つルールについては、原因を究明して改善する必要があります。
特定のルールが守られない場合は必ず原因があるので、ルールが作業の妨げになっていないかなどを確認し、改善を検討しましょう。
【Step3】 ルールを守ったら評価する
「安全規則違反を厳しく叱責したのに、事故が再発した」
というケースも報告されています。
ルールを軽視する従業員に対する罰則を設けることも有効ではありますが、決まりを守っている従業員にプラスの評価を与えることで、よりルール順守意識を高め、モラルの向上を促すことができます。
【Step4】 ルールは繰り返し伝える
言葉の捉え方の基準や、理解のスピードは人によって異なります。
正確に情報を共有し、ルールを正しく認識して守らせるためには、繰り返し定期的に伝えることが必要です。
画像やデータを使用たり・目立つ位置に分かりやすい言葉やイラストで掲示したりと、すべての従業員に確実に伝達できる施策を行いましょう。
また、ルールの変更や改訂を行った場合は、速やか、かつ繰り返し周知を行うことが重要です。
まとめ
- 工場や倉庫などの現場では1つの事故が命に関わることもあり、安全を守るために安全対策ルールの厳守を徹底しなければならない。
- 5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底は、具体的な安全対策として有効である。
- KYT(危険予知訓練)は安全対策を確実に実行できるようにするための訓練で、職場の安全に対する意識やチームワーク向上にも効果が期待できる。
- ヒヤリハットの記録と、ホウレンソウの実践が、重大事故の防止につながる。
- 従業員のルール遵守には、その目的や重要性を繰り返し伝える。
- 現場の事情を理解して、矛盾や問題点などがあれば安全対策のルールを見直し更新する。
今回は、工場や倉庫の安全対策について、基本的な施策や訓練、考え方について紹介しました。
令和2年の労働災害による死傷者数が131,156人と報告されたことからも、安全対策の重要性は依然として高まる一方です。
従業員の安全、安定した事業継続のためにも、今一度自社の安全対策がどうなっているのか、どのくらい守られているのかなど、見直しを行うことをお勧めします。