夏場の猛暑では工場や倉庫で働く人にとって、効果的な冷却対策が欠かせません。工場や倉庫の熱中症対策はクーラーや扇風機がメジャーですが、屋根散水(スプリンクラー)システムがいま注目されています。
この記事では、屋根散水システムの概要から、導入に伴うデメリットとメリット、効率的に運用するコツを詳しく解説します。屋根散水は、熱中症対策や冷房代の節約効果がありますが、ランニングコストと天候に左右されるデメリットも忘れてはいけません。
記事を読めば、屋根散水のデメリットを減らし、効率的な運用と実際のコスト削減事例が分かります。適切な散水時間の設定や、ランニングコストを抑えてコストパフォーマンスを高める具体的な対策も紹介するので、ぜひ最後まで読んでください。
屋根散水システムの全体像を把握し、最適な冷却効果を得ることで、快適で効率的な作業環境を実現しましょう。
目次
屋根散水(スプリンクラー)の概要
屋根散水システムは、工場や倉庫の屋根に水を散布することで、内部の温度を下げる冷却方法です。屋根に設置されたスプリンクラーから水を噴射し、屋根の表面温度を下げることで、室内の温度も低下させる仕組みです。
屋根の高温を抑えることは、熱中症対策や冷房効率の向上に直結し、快適な作業環境にもつながります。ここでは屋根散水の原理と効果について解説します。
屋根に水をかけることで涼しくなる原理
水を屋根に散布することで、「気化熱」の効果により温度が低下します。気化熱は、水が蒸発する際に周囲の熱を吸収する現象です。水が液体から気体に変化する際に、周囲の熱エネルギーを吸収し、屋根の表面温度が下がります。
気化熱の原理を利用することで、猛暑日でも屋根全体の温度を効果的に下げ、建物内部の温度も低下することが可能です。以下のリンクから気化熱の詳細な原理を確認できます。
地球を暖める冷凍冷蔵(環境省HP)
屋根散水の利用目的と効果
屋根散水の主な利用目的は、工場や倉庫などの大規模な建物での室温低下と作業環境の改善です。具体的には以下のような使用例と効果があります。
製造業では、機械の稼働によって内部温度が上昇しやすいです。屋根散水システムを導入することで、屋根の温度を下げ、室温を5℃以上低下させた事例があります。この結果、従業員の作業環境が改善され、作業効率が向上しました。
大規模な倉庫では、商品や材料の保管環境を適切に維持することが重要です。屋根散水システムにより、庫内温度が適切に管理されることで、商品の品質を保持し、冷房コストの削減にもつながります。
屋根散水を導入する3つのデメリット
屋根散水は屋根を冷やして室内の冷却効果が期待できますが、デメリットも存在します。ここでは屋根散水の主なデメリットを3つ紹介します。導入前にしっかり理解し適切な対策をしてください。
水道代がかかる
屋根散水システムの運用には冷却するための水が必要です。水道代がかかる場所や、新しく水道管の敷設が必要な場合はデメリットになります。
100㎡の天井に1時間に1回、10分間の散水を合計9回する場合の水道料金は以下のとおりです。
散水時間 | 10分/回 |
散水回数 | 9回/日 |
1回の散水量 | 300リットル |
1日の散水量 | 2,700リットル |
1ヶ月の散水量 | 81,000リットル |
上記の例を考慮すると、1リットルあたりの水道代が0.2円の場合、1ヶ月の水道料金は16,200円です。水道代は屋根散水を運用する上で無視できない負担となります。
※実際の散水量は、スプリンクラーの性能や屋根の形状、散水時間などにより異なります。
天板の錆びや劣化が発生する
屋根に水を散布することで、金属製の天板は錆びやすくなる点もデメリットです。錆が進行すると、屋根の耐久性が低下し、修理や交換が必要になります。
さらに、水分が滞留すると藻が発生するリスクもあります。錆びや藻の影響で、屋根材の機能や見た目が損なわれることがあるので注意が必要です。
錆びの発生を防ぐためには、耐腐食性の高い材料を使用するか、定期的なメンテナンスを計画する必要があります。コーティング剤を用いることで錆の進行を遅らせることも有効です。
冷却効果が天候に左右される
屋根散水システムは、天候条件によって冷却効果が変動します。曇りや雨の日には、太陽光が遮られるため、屋根表面の温度がそれほど上昇しません。散水した水も蒸発しないため、冷却効果が期待できないことがあります。
散水が不要な状況でシステムを稼働してしまうと、運用コストが無駄に発生します。効果的に屋根散水を運用するには、天候センサーや自動制御システムの導入検討が必要です。
屋根散水を導入する5つのメリット
屋根散水システムには、冷却効果や省エネ効果など多くのメリットがあります。ここでは、デメリット以上のメリットを5つ紹介します。
熱中症対策につながる
屋根散水システムは、効果的な熱中症対策になる点がメリットのひとつです。屋根に散水することで、気化熱効果を利用し、屋根表面の温度が下がるため、室内の温度も低下します。
屋根の表面温度が5℃下がることで、室内温度も2~3℃低下することが期待できます。室温が下がれば、作業環境が快適になり、熱中症のリスクを大幅に軽減可能です。散水の打ち水効果に関しては、環境省の資料も参考にしてください。
参考資料:簡易体感温度指標による効果把握
冷房代の節約になる
散水による冷却効果の向上により、冷房コストの削減も期待できます。室温が低下することで冷房の消費電力が削減され、年間で数十万円の節約も大げさではありません。
セレクトラジャパンのシミュレーションによれば、業務用エアコンの1か月あたりの電気代は9,699円と言われています。冷房コスト削減のシミュレーションデータを基に、具体的な節約額を示します。
項目 | 電気代(月間) | 節約額(年間) |
5%の節電効果 | 9,214円 | 5,820円 |
10%の節電効果 | 8,729円 | 11,640円 |
15%の節電効果 | 8,244円 | 17,460円 |
製造現場の電気代削減については「製造現場の電気代を減らす!今すぐできる3つの対策方法」でも詳しく解説しています。
太陽光パネルの発電効率が向上する
屋根の上に太陽光パネルを設置している場合、屋根散水システムにより、太陽光パネルの発電効率の向上が期待できる点もメリットです。太陽光パネルは熱に弱く、温度が上がる夏場は発電効率が悪化する傾向があります。
屋根散水により、太陽光パネルの温度が低下すれば発電効率が下がることもありません。一般的に、パネル温度が50℃まで下がると、最大発電量が10%向上すると言われています。温度が下がることで、太陽光パネルの効率が大幅に改善され、電気代の削減にもつながるでしょう。
太陽光パネルのメリットや注意点については「工場に太陽光発電を導入するメリット・デメリットと注意点」でも紹介しています。
設置コストが安くて簡単
屋根散水システムは設置が比較的簡単で、コストも抑えられます。屋根散水は基本的に以下の部品のみで動作し、既存の建物にも簡単に導入可能です。
・自動制御盤
・散水ノズル
撤去も容易で、改造や増設にも柔軟に対応できます。クーラーのように室内に設置する必要がなく、簡単に設置できる点が屋根散水のメリットです。
省エネ活動の実績になる
省エネ活動の一環として評価される点も屋根散水を導入するメリットです。企業の環境負荷軽減への取り組みが認められ、エコ認証の取得やCSR活動の一環として高く評価されます。
工場や倉庫の外から設置していることが一目で分かり、省エネ活動のアピールには効果的です。省エネ活動の実績が未達の場合も、屋根散水を導入すれば有力な省エネ活動の実績になります。
デメリットしかない?屋根散水でコスパ良く冷却するコツ
屋根散水システムにはデメリットも存在しますが、適切な方法を用いることでコストパフォーマンスを最大化し、効率的に冷却効果が得られます。屋根散水のコスパを向上させるための具体的なコツを紹介します。
適切な散水時間を設定する
屋根散水で冷却効果を得るためには、適切な時間設定が重要です。散水のタイミングと時間を最適に設定することで、冷却効果を最大化し、水道代を抑えられます。
以下は散水スケジュールのサンプルです。
時間帯 | 散水時間(分) |
午前9時 | 10分 |
午後1時 | 15分 |
午後3時 | 10分 |
夕方5時 | 10分 |
上記のように、最も暑い時間帯である午後1時から3時の間に散水し、夜間や夕方は散水を控えるようにすると、最小限の水道代で最大の効果が得られます
井戸水を活用する
井戸水を使用することで、水道代のコストを大幅に削減できます。特に地下水が豊富な地域では、井戸水の活用が経済的です。
屋根散水のシステムに水道水を利用する場合と、井戸水を利用する場合の料金を比較すると以下のようになります。
項目 | 水道水使用時のコスト | 井戸水使用時のコスト |
初期投資費用 ※散水システムの導入費は除く | 0円 | 200,000円 |
月間水道代 | 20,000円 | 0円 |
年間総コスト | 240,000円 | 200,000円 |
2年目以降のコスト | 240,000円/年 | 0円/年 |
井戸水の利用には初期投資が必要ですが、長期的にはコスト削減に繋がります。
耐久性のあるノズルを使用する
屋根散水に使うノズルは劣化するため、耐久性の高いノズルを選定することで、メンテナンスコストを削減できます。ノズル単体のコストは微小ですが、交換にかかる工数の削減にもなります。
例えば、スプリンクラーの部分に「無回転ノズル」を採用するのが有効です。無回転ノズルには以下の特徴があります。
・詰まりにくいためトラブルの頻度が少ない
・高耐久性素材で交換頻度が少ない
無回転ノズルは、摩耗や詰まりが少なく、長寿命であるため、頻繁な交換や修理が必要ありません。屋根散水システムには無回転ノズルのような耐久性のあるノズルの選定がおすすめです。
補助金を活用する
屋根散水システムの導入には、各種補助金や助成金が活用できます。補助金や助成金を使うことで、初期投資の負担を軽減可能です。
どの補助金が使えるかわからない、補助金の申請方法がわからない場合は、補助金代行サービスを利用することで、手続きがスムーズに進みます。補助金代行サービスに関しては以下のリンクから詳細を確認してください。
>> 補助金・助成金申請代行サービスの詳細はこちら
屋根散水システムと他の暑さ対策の比較
工場や倉庫の暑さ対策はほかにも複数あります。なかでも屋根散水システムは初期費用が安く、工期も短いのが特徴です。ランニングコストも低く、持続的な効果が期待できるため、総合的に見て非常にコストパフォーマンスが高い対策方法です。
ほかの暑さ対策と屋根散水システムの比較を以下の表にまとめました。
項目 | 屋根散水システム | エコパネル | 緑化システム | ミストファン |
工期 | ◎ | △ | ○ | △ |
ランニングコスト | ○ | ◎ | ◎ | △ |
対策の効果 | ◎ | ○ | ○ | ◎ |
効果の持続性 | ◎ | ○ | ○ | △ |
耐用年数 | ○ | ◎ | △ | △ |
ここからは屋根散水システムとほかの熱中症対策を比較します。各方法のメリットとデメリットを理解し、自社のニーズに合った対策を選びましょう。
エコパネル(熱遮蔽板)との比較
エコパネルと屋根散水システムは、どちらも屋根の温度を下げることで室内の温度を低減する効果があります。屋根散水システムは一時的に気温を下げる特徴に対し、エコパネルは設置すれば半永久的に効果が持続します。
エコパネルは屋根散水に比べると初期コストがかかるので、屋根の広さに応じて商品を選びましょう。エコパネルのメリットとデメリットは以下のとおりです。
・初期設置後のメンテナンスがほとんど不要
・効果が長期間持続
・屋根材自体の保護効果が高い
・初期費用が高い
・大規模な屋根面積に対してコストがかかる
エコパネルの詳細については以下のページを参考にしてください。
>> ぴたっとecoパネルの商品ページはこちら
緑化システムとの比較
緑化システムは、屋根散水システムと同様に、屋上に設置する暑さ対策なので、室内の設置スペースは不要です。環境改善や外観の良さも向上しますが、屋根散水システムと比較すると初期費用や維持管理がやや大変な特徴があります。
緑化システムのメリットとデメリットは以下のとおりです。
・環境改善や生態系の保護
・美観向上やヒートアイランド現象の緩和
・初期費用と維持費が高い
・定期的なメンテナンスが必要
緑化システムの詳細については以下のページを参考にしてください。
ミストファンとの比較
屋根散水システムは屋上に水を散水し冷却するのに対し、ミストファンは室内に設置し室内温度を直接下げる効果があります。どちらも高い冷却効果が期待できますが、ミストファンは連続して使用することが多くランニングコストが高くなる傾向があります。
工場や倉庫内の製品が水分に影響を受ける場合も、注意が必要なので導入前によく検討してください。
ミストファンのメリットとデメリットは以下のとおりです。
・屋内外での柔軟に使用できる
・高い冷却効果が期待できる
・静電気防止にもなる
・ランニングコストが高い
・水分の影響がある
・定期的なメンテナンスが必要
ミストファンの詳細については、以下の商品ページを参考にしてください。
屋根散水に関するよくある質問と回答
屋根散水システムを導入する前には、様々な疑問を抱く人も多いです。ここではその中でも特によくある質問に対する回答を紹介します。
屋根散水は自作できる?
屋根散水システムは自作可能ですが、効果的に機能させるためには専門的な知識が必要です。スプリンクラーの選定、配管の設置、水圧の調整など、適切な設計と施工が求められます。専門業者に依頼することで、安全かつ効率的にシステムを導入できます。
屋根散水には水道水が必要?
水道水以外にも、井戸水や工業用水、雨水を使用できます。井戸水や工業用水を使うことで、水道代の節約が可能です。
屋根散水の設置手順は?
屋根散水システムの設置手順は以下のとおりです。
設置計画に応じてスプリンクラー、配管、ポンプ、コントローラーなど必要な材料を選定します。
2) 配管の設置:屋根の上に配管を設置し、スプリンクラーを適切な位置に配置します。配管は固定し、水漏れがないように接続しましょう。
3) ポンプと水源の接続:ポンプを設置し、水源(井戸水、雨水タンク、水道水)と接続してください。水圧を調整し、適切な水流を確保します。
4) コントローラーの設定:散水のタイミングと時間を設定します。自動制御により効率的な散水が可能です。
5) テストと調整:システムを稼働させ、漏れや不具合がないか確認します。必要に応じて調整してください。
施工には専門的な知識が必要なため、専門業者への依頼を検討しましょう。
屋根散水で空調費を節約し作業環境を快適にしよう
屋根散水システムは、初期費用の低さと高い冷却効果、ランニングコストの低さから、非常にコストパフォーマンスの高い冷却方法です。他の冷却システムと比較しても、導入と運用の工夫により長期的なメリットが得られます。
特に熱中症対策や冷房代の節約効果は大きく、井戸水の活用、耐久性の高いノズルの選定、補助金の活用などを通じて、さらにコストの削減が可能です。環境負荷軽減や省エネ活動の実績としても評価されるため、多くの企業や工場にとって最適な選択肢となります。
屋根散水について少しでも興味があったら、以下の無料相談からお問い合わせください。