1972年に制定された労働安全衛生法(安衛法)では、「職場における労働者の安全と健康の確保」や「快適な職場環境の形成促進」が義務付けられています。
ただし、雇用側が様々な方法で労働災害防止に努めていても、労働者の安全衛生に対する注意や意識が低ければ、労働災害が発生する可能性は高くなります。
このような事態を防ぐために、事業者は労働者に対して安全衛生についての教育を行う必要があります。
とは言え、どのように取り組めばいいのかお悩みの方も多いことと思います。
そこで今回は、この「安全衛生教育」についての概要と、製造業の安全衛生教育についてご紹介します。
目次
安全衛生教育とは?
安全衛生教育とは、労働災害防止の観点から、労働者が安全で衛生的な業務を行うための教育です。
労働安全衛生法では、「事業者が労働者を雇い入れた際、または労働者の作業内容に変更があった場合に、労働者に対して従事する業務に関する「安全」または「衛生」のための教育を行う必要がある」などをはじめ、経験や業務内容、立場によって各種の教育を義務付けています。
労働災害の防止には「物的対策」と「人的対策」の2つがあります。
物的対策 … 設備・作業環境等の整備・改善など
人的対策 … 労働者に対する技能や知識の付与や作業マニュアルを遵守することの徹底
このうち「人的な」対策の重要なものが「安全衛生教育」になります。
安全衛生教育を実施する重要性
安全衛生教育の目的は、「労働災害を起こさないこと」にあります。
労働災害を防ぐためには、工場長や現場責任者のように現場の指揮・監督にあたる者と、実際に実務を行う者の両方が、自社が特に注意すべき「安全衛生に関するポイント」を理解しておく必要があります。
東京労働局では、安全衛生教育の重要性について次のように提言しています。
これは、過去の労働災害を分析した結果、危険有害性に関する知識や対応する技能があれば防止できたケースが多数認められたからです。労働災害や職業性疾病を防止しするためには、これまで見てきたように機械や設備を安全な状態で使用するだけでなく、これを使用する労働者に対して適切な教育を実施する必要があります。
労働者に対する安全衛生教育や訓練については、法令上実施することが義務付けられているものと、個々の事業場が独自の判断で実施しているものとがあります。
安全衛生教育は、それぞれの事業場の実態に即して、そのような教育が、どのような対象者に必要なのかを十分検討したうえで教育・訓練計画を立て、これに基づき実施していくことが重要です。
また、事業場規模によっては、安全衛生教育を自社だけで実施することが困難な場合も出てきますので、このような事業場においては、安全衛生関係団体等が開催する説明会、講習会等を活用して、これらに積極的に参加させるような取組みが必要です。
出典:東京労働局ホームページ
労働安全衛生法に基づく6つの安全衛生教育
労働安全衛生法に基づく「安全衛生教育」には6つの種類があります。
- 1. 雇入れ時の教育
- 2. 作業内容変更時の教育
- 3. 特別の危険有害業務従事者への教育(=特別教育)
- 4. 職長等への教育
- 5. 危険有害業務従事者への教育
- 6. 安全衛生水準向上のための教育
※ 安全衛生教育は原則として所定労働時間内に行い、費用は事業者が負担しなければなりません。
雇い入れ時教育と作業内容変更時の教育
事業者は、労働者を雇い入れたとき、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対して、遅滞なく、次の事項のうち、その当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のための必要な事項について、教育を行わなければなりません。(労働安全衛生法第59条第1項、2項)
- ① 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
- ② 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
- ③ 作業手順に関すること。
- ④ 作業開始時の点検に関すること。
- ⑤ 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。
- ⑥ 整理、整頓及び清潔の保持に関すること。
- ⑦ 事故時等における応急措置及び退避に関すること。
- ⑧ 前各号に掲げるものの他、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項。
※ 事務仕事が中心となる業種などにおいては ①~④ は省略可
特別教育
特別教育は、「危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。」となっています。(労働安全衛生法第59条第3項)
※ 特別教育の種類は、労働安全衛生規則第36条「特別教育を必要とする業務」の1号から41号までに定められており、第37条には、「特別教育の科目の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目についての教育を省略することができる。」となっています。
※ なお、特別教育の細目については、厚生労働大臣が定め、告示として制定されております。
職長等教育
事業者は新たに職務につくことになった職長その他の作業中の労働者を直接指揮又は監督する者(作業主任者を除く)に対して、次の事項について安全又は衛生のための教育を行わなければなりません。(労働安全衛生法第60条)
- ● 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。
- ● 労働者に対する指導又は監督の仕方に関すること。
- ● リスクアセスメントの実施に関すること。
- ● 異常時等における措置に関すること。
- ● その他、現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること。
労働安全衛生施行令第19条で定める、職長等の教育を行うべき業種は次の通りです。
建設業、製造業(食料品・たばこ製造業、繊維工業、紙加工製造業、繊維製品製造業、他は除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業
危険有害業務従事者への教育
業者が労働災害の動向、技術革新等社会経済情勢の変化に対応しつつ事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、危険又は有害な業務に現に就いている者(以下「危険有害業務従事者」という)に対して行う教育です。(労働安全衛生法第60条)
事業者は、危険有害業務従事者に対する安全衛生教育の実施に当たっては、事業場の実態を踏まえつつ、本指針に基づき実施するよう努めなければなりません。
安全衛生水準向上のための教育
事業者は、「事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者等その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない」と規定されています。(労働安全衛生法第19条)
製造業における未熟練労働者の安全衛生教育
ここまで労働安全衛生法に基づく安全衛生教育についてお伝えしてきましたが、中でも重要な教育のひとつが未熟練労働者の安全衛生教育(雇い入れ時教育と作業内容変更時の教育)です。
特に製造業において、経験年数の少ない未熟練労働者は、作業に不慣れで、危険に対する感受性も低いため、労働者全体に比べ労働災害発生率が高くなります。
未熟練労働者の安全衛生教育は、雇用側の役割として最優先事項であると言えます。
講習については、専門機関による講習、オンライン講座、動画などがあり、受講時間もそれぞれ異なりますが、主な流れは次のようになります。
製造業における安全衛生教育の流れ
- 職場にはさまざまな危険があることを理解させる。
- 「かもしれない」で危険の意識をもたせる。
- 災害防止の基本を教える
さまざまなルールや活動があることを理解させる。
正しい作業服装の着用
作業手順の励行
4S・5Sの励行
ヒヤリ・ハット活動
危険予知訓練(KYT)
リスクアセスメント
危険の見える化
安全な作業の基本を理解させる。
「はさまれ・巻き込まれ」災害の防止
「転倒」災害の防止
「切れ・こすれ」災害の防止
「熱中症」の予防
「腰痛症」の予防
もし異常事態や労働災害が発生したときの対応を理解させる。
異常事態発生時の対応
労働災害発生時の対応
【英語版資料】
製造業向け|未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル (厚生労働省ホームページ)
【中国語版資料】
製造業向け|未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル (厚生労働省ホームページ)
【ポルトガル語版資料】
製造業向け|未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル (厚生労働省ホームページ)
【スペイン語版資料】
製造業向け|未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル (厚生労働省ホームページ)
さらに、製造業向け|未熟練労働者に対する安全衛生教育の追加資料を「パワーポイント版、動画版」で公開しています。
未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル (厚生労働省ホームページ)
まとめ
- 安全衛生教育とは、労働災害防止の観点から、労働者が安全で衛生的な業務を行うための教育である。
- 安全衛生教育の目的は、「労働災害を起こさないこと」にある。
- 労働安全衛生法に基づいて、6つの安全衛生教育が掲げられている。
- 製造業における未熟練労働者の安全衛生教育は、労働災害を防止する上で重要である。
今回は、安全衛生活動の中でもとりわけ重要な、労働安全衛生法に基づく安全衛生教育について、その概要をご紹介しました。
労働安全衛生法(安衛法)とは、1972年に制定された、「職場における労働者の安全と健康の確保」や「快適な職場環境の形成促進」を目的とする法律で、事業者はこれに従い、労働者の安全・健康を確保するため、さまざまな措置を講じる義務があります。
実際の労働安全教育にあたっては、自社で取り組むケースの他に、外部に委託するケースもありますが、事業者としては、まずはその基本的な内容を把握しておく必要があるでしょう。