自然災害のリスクから事業を守るには? 被害実例と防災対策を徹底解説!

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工場など製造業を含む中小企業は、常に多くのリスクを抱えています。
中でも事業者にとって、損失のみを発生させる「純粋リスク」のひとつである自然災害リスクと向き合うことは、安定した経営と事業継続のために最も重要な課題のひとつです。

いつ起こるかわからない自然災害を「特別な出来事」として捉えるのではなく、日常業務の延長線上にあると考え、災害が事業に及ぼすリスクを強く意識し、その対策を講じておかなければなりません。
今回は、自然災害のリスクとやるべき対策についてわかりやすく解説します。

身近に迫っている自然災害の脅威

日本は、世界の中でも自然災害による被害を受けやすい国です。
国内における自然災害による被害の内訳を見ると、発生件数は「台風」が57.5%と最も多く、次いで「地震」、「洪水」となっています。

被害額では「地震」が8割超を占めており、次いで「台風」、「洪水」の順です。
近年では東日本大震災(平成23年)や、鬼怒川で発生した堤防決壊(平成27年)のような大規模な洪水等、従来の想定を超えた大規模災害の発生が増加しています。

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資料:ルーバン・カトリック大学疫学研究所災害データベース(EM-DAT)から中小企業庁作成
(注) 1.1985年~2015年の自然災害による被害額を集計している。
2.EM-DATでは「死者が10人以上」、「被災者が100人以上」、「緊急事態宣言の発令」、「国際救援の要請」のいずれかに該当する事象を「災害」として登録している。
「日本における自然災害被害額の災害別割合」(中小企業庁) https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b2_4_1_2.htmlを加工して作成

また、「感染症」も自然災害のひとつです。
2019年12月初旬に中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されてから、わずか数カ月ほどの間に世界的な流行となり、2022年現在に至るまで収束を見ない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、日本の事業者にも大きなダメージを与え、その被害も拡大しています。

このように、自然災害の脅威はごく身近に存在し、人の力では決してコントロールすることが出来ない現象であることがわかります。

一方で、科学技術の発達や分析によって、自然災害発生の「予測」が出来るようになり、その情報は広く一般に公開されています。正しい知識を身につけて自然災害に備えることは、事業継続のために最も重要な課題であり、企業としての義務でもあります。

頻発する「水害」には明確な原因がある

気象庁による2021年度の水害レポートによると、7月初旬に停滞した梅雨前線による豪雨により中部地方を中心に大きな被害が発生、続いて8月中旬には停滞前線により九州地方を中心に大雨となり、九州、中国及び中部地方で被害が出ました。

このように、水害をもたらす大雨が連続して発生するケースや、これまで水害のなかった地域での浸水なども発生しています。

ここでは、浸水や土砂災害など、事業者にも深刻なダメージを与える「水害」の原因に迫ります。

水害を引き起こす原因となる気象事例

■台風
日本は世界的に見ても「台風」の影響を受けやすい国です。
平均すると1年間に26.4個の台風が発生し、その進路上にある日本には平均11.5個の台風が接近するといわれています。

地球温暖化の影響によって、大きな台風が起こりやすくなっており、今後「スーパー台風」と呼ばれるレベルの巨大な台風が発生し、日本に上陸する可能性も懸念されています。

■集中豪雨
近年多くなっているのが集中豪雨で、この集中豪雨を引き起こす原因として重要視されているのが「線状降水帯」です。

線状降水帯の発生頻度は、ここ45年でそれまでの2倍を超え、集中豪雨が起きやすくなっていることが気象庁気象研究所の分析でわかっています。

■地震
日本の近海は、複数のプレートが重なる海溝やトラフが分布しており、プレート間における大規模な海底地震による津波が発生しやすい海域になっています。そのため、日本の沿岸は、津波の被害を受けやすい地域になっています。

水害の種類

■大雨による氾濫
大雨によって引き起こされる水害には「外水氾濫」「内水氾濫」があります。

外水氾濫は、多量の雨によって河川が氾濫したり、堤防が決壊したりすることで市街地に水が流れ込む現象です。

内水氾濫は、市街地に排水能力を超える多量の雨が降り、排水が雨量に追い付かず建物や土地が水に浸かる現象で、「氾濫型」と「湛水(たんすい)型」に分かれます。

  • 氾濫型の内水氾濫とは、側溝や排水路などの排水機能が河川の増水や大量の雨水に耐え切れず、少しずつ浸水していくもので、河川の有無にかかわらず発生します。
  • 湛水型の内水氾濫は、河川の水が排水路などを逆流して起きるものです。河川の水位が高くなる場合に発生しやすく、2019年の多摩川の氾濫がこれにあたります。
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出典:気象庁ホームページ (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/riskmap_flood.html)

■高潮
高潮は、台風や発達した低気圧などに伴い、気圧が下がり海面が吸い上げられる効果と強風により海水が海岸に吹き寄せられる効果のために、海面が異常に上昇する現象です。

台風や発達した低気圧の接近、上陸に伴って短時間のうちに急激に潮位が上昇し、海水が海岸堤防等を超えると一気に浸水します。

平成16年の台風第16号は、8月30日、強い勢力で西日本を縦断しました。台風の接近、通過に伴う気圧低下で海面が上昇し、南からの暴風による吹き寄せで豊後水道などから瀬戸内海に大量の海水が送り込まれ、瀬戸内海沿岸では高潮が発生しました。
一年を通じて最も潮位の高い季節のしかも大潮の時期にあたり、さらに満潮の時間と重なったこともあり、香川県では床上8,393棟、床下13,424棟、岡山県では床上5,696棟、床下5,084棟、広島県では床上1,386棟、床下6,139棟の浸水被害が発生しました。

引用:消防庁 平成16年台風第16号による被害状況(第11報)より

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■津波
地震が海域で発生し、震源が海底下の浅いところにあると、海底面の上下の変化は、海底から海面までの海水全体を動かし、海面も上下に変化します。 このようにもたらされた海水の変化が周りに波として広がっていく現象のことを津波といいます。

2011年3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」による津波では、岩手県大船渡市の綾里湾で局所的に40.1mの遡上高(海岸から内陸へ津波がかけ上がった高さ)が観測されました。(東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる調査)
記録に残っている中では、1896年の明治三陸津波(遡上高で約38.2mと推定:同じく岩手県大船渡市)を上回り、これまでに日本で記録された最大の津波となりました。

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出典:気象庁ホームページ (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html)

企業の水害対策3つのチェックポイント

POINT1: ハザードマップによる洪水リスクの把握

まずは工場など事業所の周辺にどのような水害リスクがあるのかを知るために、地域のハザードマップを確認する事が重要です。
実際に起こった過去の水害を見ても、このハザードマップが記した被害予測とほぼ同じである事がわかっています。
国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」では、過去の災害事例をはじめ、全国のハザードマップが簡単に閲覧できます。

ハザードマップによって、事業所のどこから浸水しやすいかを把握した上で対策を行い、安全な避難場所や避難経路を予め決めておくと良いでしょう。

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■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
https://disaportal.gsi.go.jp/index.html

POINT2: 浸水を防ぐ道具や備品の準備と備蓄

水害による浸水から建物を守るためには、土嚢(どのう)や水のう、止水版などの浸水対策用品を予め準備しておく必要があります。
また、EV車などによる電源の確保、食料や生活必需品の備蓄も必要です。

これまで災害備蓄は最低3日分と言われてきましたが、幹線道路の分断、感染症発生などを考えると、最低2週間分は必要ともいわれています。

POINT3: 水害を想定したBCPの策定

BCPは、災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Planning)のことです。水害発生時の対応を、きちんと定めておくことは事業の継続において重要です。

台風や大雨などによる水害は、予報や警報によってその規模も予想可能なので、実際に水害が発生した時の行動を決めておくことで被害の軽減ができます。
また、普段の防災訓練などで、策定したBCPに沿った教育を行えば、災害発生時に速やかで冷静な対応ができるようになります。

水害だけではない、怖い自然災害

ここまで「水害」を中心に、自然災害の原因と対策をお話ししてきましたが、自然災害の脅威は水害だけではありません。

大規模地震

日本周辺では、海のプレートである太平洋プレート、フィリピン海プレートが、陸のプレート (北米プレートやユーラシアプレート)の方へ1年あたり数cm の速度で動いていて、陸のプレー トの下に沈み込んでいます。
このように複数のプレートによって複雑な力がかかることで、日本は世界でも有数の地震多発地帯となっています。

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左「1960年から2011年にかけての日本付近で発生した地震の分布図」
右「日本付近のプレートの模式図」
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/jishin/about_eq.html)

近い将来で発生の切迫性が指摘されている大規模地震には、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震、中部圏・近畿圏直下地震があります。
中でも、関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が発生するとされる南海トラフ地震と、首都中枢機能への影響が懸念される首都直下地震は、今後30年以内に発生する確率が70%と高い数字で予想されています。

また、熊本地震(布田川断層帯・日奈久断層帯)のように、30年以内の発生確率が1%未満であっても、大地震が発生した例もあります。

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出典:内閣府「防災情報のページ」(https://www.bousai.go.jp/kyoiku/hokenkyousai/jishin.html)

火山災害(噴火)

日本には第四紀(約260万年前から現代まで)に生成した火山が400以上あるといわれています。
そのうちの111が活火山で、現在「気象庁」「大学」「国土地理院」その他の研究機関による監視、観測が行われています。
火山噴火が起こると、それに伴う様々な現象が災害を引き起こします。

災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、火山ガス等があります。

特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。

「めったに起こらない」という過信が命取りになる自然災害

大規模地震や火山噴火は、台風や集中豪雨に比べて発生頻度は低いものですが、ひとたび発生すれば、未曾有の大災害を引き起こします。

・ハザードマップや防災ポータルサイトを活用して予め地域の災害リスクを知っておく
・予め避難場所や避難経路を決めておく
・気象庁や内閣府からの警報や警戒レベルに留意し速やかに対応する

などは、最低限必要な対策といえます。

大規模地震や噴火を「めったに起こらない天変地異」ではなく「起こる可能性がある災害」と考えて、最新の情報に耳を傾け、基本的な防災対策を行っておく必要があります。

企業に求められる防災意識と事業継続計画

自然災害には、頻発する「台風」や「集中豪雨」だけでなく、ひとたび発生すると甚大な被害を及ぼす「地震」や「噴火」、そして「感染症」もあります。
こういった自然災害全般に率先して防災意識を持ち、もしもの時に従業員の安全を確保し、被害を最小限に抑えることは、企業の社会的責任です。

内閣府では事業継続のガイドラインを策定し、企業に対して「BCP (事業継続計画)」「事業継続力強化計画」の運用を促進しています。

BCP (事業継続計画)

BCPとは、事業継続計画(Business Continuity Plan)の頭文字を取った言葉です。
企業が、自然災害や事件、テロといった緊急事態が起きた際、事業資産への被害を最小限に食い止め、中核事業を継続し、いち早く事業全体を復旧させて、平常時や緊急時におけるさまざまな対策や方法をまとめた計画です。

事業継続力強化計画

事業継続力強化計画とは、主に中小企業・小規模企業向けの防災・減災の事前対策計画で、BCPよりも取り組みやすい計画です。
経済産業大臣がこの「事業継続力強化計画」認定する制度もあり、認定を受けた中小企業は、税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援策が受けられます。

まとめ

  • 自然災害による被害は「台風」が最も多く次に「地震」「洪水」となっている
  • 近年では従来の想定を超えた大規模災害の発生が増加傾向にある
  • 水害を引き起こす原因となる自然現象として台風、集中豪雨、地震がある
  • 水害の種類には「大雨による氾濫」「高潮」「津波」がある
  • 水害対策でハザードマップによる洪水リスクの把握は優先事項である
  • 水害、地震、噴火などの自然災害リスクに備えることが事業継続に役立つ
  • 防災意識を持ってBCPや事業継続力強化計画に取り組む事は企業の義務でもある

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